ラルム / しずく通信

2022.01.09第7号冬号編集 はるまき寄稿 はるまき・ロク・鹿の子・灯

しずく通信 第7号(2022年 冬)

新年号のはじめに

(はるまき)

あけましておめでとうございます。今年の黒豆は、はじめてしわが寄らずに煮えました。

この冬の号には、十二月に初めて開いた「しずく大賞」の結果が入っています。九人の投票で、七つの部門の作品が決まりました。いや、ほんとに、票を開ける夜は、自分の入れた作品じゃなくてもどきどきしちゃいましたよね。


もくじ

  1. 新年号のはじめに(はるまき)
  2. 第1回 しずく大賞の結果
  3. 感情浴会の記録 第18回〜第20回
  4. 寄稿 この一年で読んだ本(鹿の子)
  5. 寄稿 冬の読みかけ(灯)
  6. 冬の選書
  7. 次の会

第1回 しずく大賞の結果

取りまとめはロク。その年に世に出た作品から、部門ごとに一人一票。最後まで読んだ・観た・聴いた・遊んだ作品にだけ入れる決まりです。

部門 大賞 票
小説 『スモールワールズ』一穂ミチ 8票中5票
漫画 『ルックバック』藤本タツキ 9票中7票
アニメ 『オッドタクシー』(テレビアニメ) 8票中4票
映画 『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督 7票中5票
ドラマ 『大豆田とわ子と三人の元夫』(坂元裕二脚本) 8票中6票
音楽 藤井風「きらり」 9票中4票
ゲーム 『モンスターハンターライズ』 5票中3票

選評は、部門ごとにその媒体をいちばんよく浴びているメンバーが書きました。ここには、それぞれの書き出しに近いところを少しずつ載せます。

  • 小説(灯) 六つ目の話を読み終えてから、しばらく電気をつけずにいた、というところから始まります
  • 漫画(凪) 雨の中を走って帰る見開きの話を、させてください、と
  • アニメ(凪) 春の号で戸惑ったと書いた一話目が、最後には今年いちばん声の出た作品になりました
  • 映画(ロク) 上映時間は百七十九分、から始まります
  • ドラマ(はるまき) 毎週火曜の夜は、洗い物を後回しにしていました
  • 音楽(オト) 夜勤明けの車の中で、一曲だけのつもりが五回
  • ゲーム(ヤギ) 相棒の犬に飛び乗って、そこで一回コントローラーを置いた

ロクからひとこと。

票が割れるのは悪いことではない。同じ一年でも、心が動いた場所は人によって違う。来年も十二月にやる。


感情浴会の記録

第18回(十月) 驚きたい 『十角館の殺人』綾辻行人

進行は鹿の子の初めての進行で、記録は灯。結末には触れない、読んだことのある人も初めて読んだふりをする、という約束で始まりました。はじめの三十分は、まだ読み終えていない人のための時間で、ほかのみんなは画面の前で黙って待っていました。鹿の子の問いは一つだけ。どこで最初に、おかしいと思ったか。はるまきは、途中で犯人を三回変えていました。

第19回(十一月) ひとりを味わいたい 『走ることについて語るときに僕の語ること』村上春樹

進行は灯、記録はロク。オトは夜勤で欠席でした。長年走り続けてきた書き手の、走ることについての文章です。話はそれぞれの「ひとりの時間」のことになって、めじろが、ない、と答えてみんなが少し笑いました。記録のロクは、読み終えた翌朝に三キロ走ったそうです。

第20回(十二月) 誰かに会いたくなりたい 『宇宙よりも遠い場所』(テレビアニメ)

進行は凪、記録はめじろ。九人がそろいました。南極を目指す四人の高校生の話で、全13話のうち第11話まではそれぞれ観てきて、第12話を同じ時間に再生しました。凪は今回もマイクを切っていました。観終わってから、しばらく会っていない人の話をそれぞれしました。


寄稿 この一年で読んだ本

(鹿の子)

一年間に読んだ本の数を数えることに、どれほどの意味があるのだろうか。

筆者の手帳によれば、昨年読み終えた本は六十一冊である。そのうち小説が四十冊、残りは随筆や、仕事の必要で読んだものだ。数だけを見れば多いように思えるが、筆者にとって大事なのは、読み終えたあとに、どの本の中でいちばん長く迷子になったかのほうである。

ところで、大賞の小説部門で筆者が票を入れたのは、朝井リョウの『正欲』だった。選ばれたのは一穂ミチの『スモールワールズ』で、これにはまったく異論がない。ただ、『正欲』ほど、読んでいるあいだに自分の立っている部屋の間取りが分からなくなる本は、この一年でほかになかった。人に言えないものを抱えた何人かの人物が、少しずつ近づいていく。どの扉を開けても、別の廊下につながっている。

もう一冊、年の暮れに読んだ逢坂冬馬の『同志少女よ、敵を撃て』も挙げておきたい。戦争の話であり、読むのはたやすくない。それでも、一人の少女がどこへ向かって歩いていくのかを、最後まで見届けずにはいられなかった。

そして、十月の会のために『十角館の殺人』を読み返した。三度目である。ひとつ確かなのは、結末を知っていても、あの一行の手前で筆者の手は止まるということだ。今年も、そういう本に何冊出会えるかを楽しみにしている。


寄稿 冬の読みかけ

(灯)

夜の十一時。こたつの上に、読みかけの本が三冊あります。

一冊目は、谷崎潤一郎の『細雪』。四人の女きょうだいの話で、とても長い本です。去年の秋に読み始めて、まだ半分にも届いていません。急ぐ本ではない、と自分に言い聞かせています。

二冊目は、武田百合子の『富士日記』。山の家での暮らしを、毎日少しずつ書いた日記です。その日に食べたものと、天気と、買ったものの値段。読んでいると、自分の一日も、少しだけ丁寧に見えてきます。

三冊目は、まだ決めていません。本屋で手に取ったまま、帯を外して、置いてあります。

冬は、読みかけの本が増える季節です。たぶん、読み終えるのがもったいないからだと思います。窓の外で雪が降りはじめると、湯気の立つ湯のみを持って、どれか一冊を少しだけ開きます。

一冊も読み終えないまま春になっても、それはそれでいい気がしています。


冬の選書

ビル・エヴァンス『ワルツ・フォー・デビイ』(音楽)
選んだ人:オト。ライブの録音。グラスの音と、客の話し声が、ときどき入る。それも含めて、夜の一枚。

『ゆきのひ』エズラ・ジャック・キーツ(絵本)
選んだ人:めじろ。雪の朝に、男の子がひとりで外へ出ていく絵本です。足あとの絵のところで、子どもがかならず指でなぞります。

『ファーゴ』ジョエル・コーエン監督(映画)
選んだ人:ロク。一面の雪。白い画面の端に、小さな事件。寒い部屋で観ること。

『ゼルダの伝説 スカイウォードソード HD』(ゲーム)
選んだ人:ヤギ。雲の上の町から、下の大地へ飛び降りる。落ちている数秒で、手が止まる。


次の会

  • 第21回(一月) テーマ「やり直したくなりたい」。川口俊和の小説『コーヒーが冷めないうちに』。進行は灯、記録は栞。温かい飲みものを用意してきてください。
  • 第22回(二月) テーマ「救われたい」。映画の回です。進行はロク、記録は鹿の子。

しずく通信 第7号 2022年1月 編集:はるまき

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