はじめに
(ロク)
五回目。十三人。これまででいちばん多い。
一年休んでいた一人が四月に戻り、同じ月に一人が加わった。今年の十二月にいる全員が、票を入れた。
決め方で、一つだけ言葉を足した。続きものは、その年に新しい巻や新しい期が出ていれば対象にする。前から暗黙でそうしていたが、今年は漫画の部門で、それがはっきり効いた。
二十七日の会のあとに案内を回して、二日で十三票がそろった。票を開けたのは二十九日の夜。集計は僕がやった。
場所は、四年目の都内の貸し会議室。来たのは八人。灯、凪、栞、はるまき、ぬか、草餅、タカノツメ、僕。ほかの五人は画面から。開票の夜に来た人数では、いちばん多い。
結果
| 部門 | 大賞 | 票 | 次点 |
|---|---|---|---|
| 小説 | 『イン・ザ・メガチャーチ』朝井リョウ | 12票中5票 | 票が分かれた |
| 漫画 | 『メダリスト』つるまいかだ(この年に出た巻) | 12票中6票 | 票が分かれた |
| アニメ | 『薬屋のひとりごと』第2期(テレビアニメ) | 13票中5票 | 『メダリスト』(テレビアニメ・4票) |
| 映画 | 『国宝』李相日監督 | 12票中8票 | 『ファーストキス 1ST KISS』(2票) |
| ドラマ | 『あんぱん』(連続テレビ小説) | 13票中6票 | 『べらぼう』(4票) |
| 音楽 | 米津玄師「BOW AND ARROW」 | 12票中5票 | 米津玄師「IRIS OUT」(3票) |
| ゲーム | 『ドンキーコング バナンザ』 | 9票中4票 | 『マリオカート ワールド』(3票) |
選評
小説部門 『イン・ザ・メガチャーチ』朝井リョウ
(灯)
夜の十時すぎに、最後の頁を閉じました。部屋の明かりを、少しだけ落としました。
何かを強く信じて集まる人たちと、その信じる気持ちを、うまく動かそうとする側の人たち。いくつかの視点が、少しずつ近づいていく話です。五月の会で読んだ同じ書き手の本と同じように、読み終えてすぐには、何も言えませんでした。
誰かを好きになる気持ちや、何かに夢中になる気持ちが、どこから来ているのか。読みながら、自分がこの会で毎月、同じ作品を一緒に味わってきた時間のことも、たぶん、少しだけ考えていました。
九月に出たばかりの本で、票は五つ。ほかの票は、ひとつずつに分かれました。
エッセイと絵本と朗読は、今年も部門にしていません。ただ、八月の会で聴いた『怪談』と、六月に読んだ旅の本は、その月の会のあと、何人かが別の本を探していました。票ではない形で、ちゃんと残っています。
漫画部門 『メダリスト』つるまいかだ
(草餅)
氷の上で、小さな女の子が、はじめて誰かのためにジャンプを跳ぶ。見開きで、うちは本を閉じた。
四月の会で、うちが進行した漫画。スケートを始めるには遅いと言われた女の子と、選手の夢を途中で終えたコーチの話。この一年に出た巻では、女の子がもっと大きな大会に出ていく。リンクの白と、衣装の色。一コマの中の光が、若葉みたいにまぶしい。
ここ三年、漫画の部門はいつも割れていた。今年は、四月の会で読んだ人が多かったからか、半分の票が集まった。続きものでも、その年の巻で選べる、とロクが言葉を足してくれたのも大きかった……
アニメの部門でも、同じ作品のアニメが次点に入っている。うちは、そっちにも少しだけ心の中で票を入れてた。
アニメ部門 『薬屋のひとりごと』第2期(テレビアニメ)
(凪)
後宮の庭で、薬師の女の子が、誰にも気づかれないまま毒の正体に気づく、あの顔から話させてください。
宮中で下働きをしている、薬と毒にやたら詳しい女の子が、その知識のせいで、次々と奇妙な事件に巻きこまれていく話で、第2期では、一話ごとの謎の向こうに、大きな話の骨組みが少しずつ見えてきて、ここ、本当に、終盤の数話は試合の最後の一周のように息をつめて観ていました。
今年のアニメは、ほんとうに票が割れて、次点の『メダリスト』とは一票差。十三人全員が票を入れた部門で、自分の一票がどちらだったかは、何回聞かれても言いません。
映画部門 『国宝』李相日監督
(ロク)
上映時間は百七十五分。今年いちばん長く、今年いちばん票がまとまった。
任侠の家に生まれた少年が、歌舞伎の名門に引き取られ、その家の跡取りと兄弟のように育つ。二人は同じ舞台を目指し、ときに入れかわる。
要するに、舞台の骨組みを裏側から見せる映画だ。楽屋、廊下、奈落。画面の端に、いつも誰かの背中がある。表で拍手が鳴っているとき、裏で何が起きているか。それを三時間、ずっと見せられる。
九月の会で取り上げた。何人かが、会のあと、もう一度観に行った。僕もその一人だ。
次点は『ファーストキス 1ST KISS』で二票。
ドラマ部門 『あんぱん』(連続テレビ小説)
(タカノツメ)
結論から言う。今年の朝、小生はあんぱんに負けた。
子ども向けの有名なヒーローを生み出した漫画家と、その妻の半生をもとにした話である。戦争をはさんで、二人は何度も離れ、何度も迷う。正義とは何かを、半年かけて問い続ける。
脚本が、甘い名前の作品なのに、まったく甘くない。戦争の場面は、ぴりっとどころではなく、翌朝まで舌がしびれる。そのあとで出てくる、ほんのひと切れの甘さが、あとから効いてくるのである。
次点は大河の『べらぼう』で四票。十三人全員が、どちらかの朝か夜にしびれていた。来週まで待てない、ではなく、明日の朝まで待てない一年であった。
音楽部門 米津玄師「BOW AND ARROW」
(いちょう)
一月、朝の電車の窓に、まだ霜がついていました。そのとき、初めてこの曲を聴きました。
アニメの『メダリスト』の主題歌です。氷の上を滑っていくような曲で、電車が加速するところで、ちょうどサビが来ると、鳥肌が立ちます。気づいたら、一年ずっとリピートしてました。
今年初めて選評を書きます。音楽の部門は、ほんとうはオトの担当ですが、オトから、今年はいちょうが書いて、と言われました。ちょっと緊張しています。
次点は、同じ人の秋の曲で三票。一年のはじめと終わりに、同じ人の曲がそれぞれ残ったのが、なんだかいいなと思いました。
ゲーム部門 『ドンキーコング バナンザ』
(ヤギ)
壁を殴った。穴があいた。その先に、また地面があった。そこで手が止まった。
地面を掘って、壊して、進むゲームだ。道がないなら作ればいい。崖があるなら崩せばいい。遠くへ行く方法が、自分の手の中にある。
地の底へ、地の底へ降りていく。降りるほど、世界が広くなる。遠くの山じゃなくて、足の下に、まだ行っていない場所がある。今年いちばん、地形の見え方が変わったゲームだった。
票は九人から集まって、四つ。遊んでいる人が、五年でいちばん多くなった。
投票したメンバーのひとこと
(栞)音楽は『BOW AND ARROW』に入れました。四月の会で漫画を読んだあとに聴くと、曲の中に、あの氷の音が沈んでいる気がしました。
(はるまき)ドラマは『あんぱん』です。毎朝、子どもの髪を結びながら観ていました。戦争の週は、いや、ほんとに、朝から台所で泣いちゃいました。
(めじろ)アニメで『メダリスト』に入れました。上の子がスケートの真似をして、居間の床をくつしたで滑っています。やわらかい毛布の上で転んで、笑っていました。
(オト)
戻ってきて、最初の大賞。
音楽は、いちょうに任せた。
一年ぶんの帰り道で聴いた曲を、いちょうのほうがよく知っていたから。
票は、アルバムに入れた。
(ぬか)わたくしは漫画で『メダリスト』に入れました。食べものの場面は多くないのに、読み終えて白いごはんが欲しくなったのでありました。体を動かす話には、そういう力があるようです。
(こはぜ)小説で『イン・ザ・メガチャーチ』に入れました。読んでいるあいだ、いくつもの声が、耳の奥で重なっていくように聞こえたのです。
五回の大賞
| 部門 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 |
|---|---|---|---|---|---|
| 小説 | スモールワールズ | 汝、星のごとく | 水車小屋のネネ | カフネ | イン・ザ・メガチャーチ |
| 漫画 | ルックバック | さよなら絵梨 | カグラバチ | ふつうの軽音部 | メダリスト |
| アニメ | オッドタクシー | ぼっち・ざ・ろっく! | 葬送のフリーレン | ダンジョン飯 | 薬屋のひとりごと 第2期 |
| 映画 | ドライブ・マイ・カー | ちょっと思い出しただけ | 怪物 | 侍タイムスリッパー | 国宝 |
| ドラマ | 大豆田とわ子と三人の元夫 | silent | ブラッシュアップライフ | 虎に翼 | あんぱん |
| 音楽 | きらり | BADモード | ひみつスタジオ | さよーならまたいつか! | BOW AND ARROW |
| ゲーム | モンスターハンターライズ | ELDEN RING | ティアーズ オブ ザ キングダム | ドラゴンクエストIII | ドンキーコング バナンザ |
選考を終えて
(ロク)
三十五作。五年ぶん。
並べると、会で取り上げた作品が、いつのまにか何本も入っている。反対に、ここに並んだ作品を、あとから会で取り上げたこともある。表の行と、毎月の会が、配線でつながっている。
十三人全員が票を入れたのは、アニメとドラマ。
来年も十二月にやる。この表は、また一列ぶん伸びる。
投票したメンバー:灯・凪・ロク・栞・はるまき・ヤギ・めじろ・オト・ぬか・草餅・こはぜ・タカノツメ・いちょう(十三人)
(取りまとめ:ロク)