ラルム / しずく大賞

2024.12.29第4回集計 ロク選評 ロク・こはぜ・草餅・凪・タカノツメ・栞・ヤギ・灯・はるまき・めじろ・ぬか

第4回 しずく大賞(2024年) 結果と選評

はじめに

(ロク)

昨日、十二月二十八日の会で取り上げた映画が、その夜の開票で、映画部門の大賞になった。

十一人。今年は、休んでいる一人を除いた全員が投票した。去年より一人少ない。

開票は、今年も都内の貸し会議室。来たのは七人。灯、凪、栞、はるまき、草餅、タカノツメ、僕。この夜は、七人が会もその部屋の一つの画面からつないだ。ほかの四人は、会も開票も画面の向こうだった。

部門は七つ。決め方は変えていない。表には次点も載せる。今年は、選評の順番を少しだけ変えた。映画を最初に置く。会の夜と開票の夜が同じ日になったのは、四回目で初めてだからだ。


結果

部門 大賞 票 次点
映画 『侍タイムスリッパー』安田淳一監督 10票中7票 『夜明けのすべて』(2票)
小説 『カフネ』阿部暁子 10票中4票 『成瀬は信じた道をいく』(3票)
漫画 『ふつうの軽音部』クワハリ・出内テツオ 9票中5票 票が一つずつに分かれた
アニメ 『ダンジョン飯』(テレビアニメ) 11票中6票 『ルックバック』(4票)
ドラマ 『虎に翼』(連続テレビ小説) 11票中6票 『アンメット ある脳外科医の日記』(3票)
音楽 米津玄師「さよーならまたいつか!」 9票中3票 Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」(2票)
ゲーム 『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(HD-2D版) 7票中3票 『ゼルダの伝説 知恵のかりもの』(2票)

選評

映画部門 『侍タイムスリッパー』安田淳一監督

(ロク)

十票中七票。今年いちばんまとまった。

幕末の侍が、雷に打たれて、現代の時代劇の撮影所に飛ばされる。行くあてのない侍は、斬られ役として、撮影所で生きていくことになる。

要するに、本物が偽物の稽古をする映画だ。本物の侍が、斬られ方を一から習う。その逆さまの骨組みが、最初から最後までぶれない。

撮影所の人たちがいい。消えかけている仕事を、黙って続けている人たち。画面の端で、小道具を運んでいる人の手つきまでちゃんと撮っている。

最初は小さな映画館一つで始まった映画だと聞いた。それが、年末には僕の町の映画館にも来た。次点は十月の会で観た『夜明けのすべて』。どちらも、誰も怒鳴らない、というところは似ている。

小説部門 『カフネ』阿部暁子

(こはぜ)

最初の一行を読んだとき、頭の中で、少しかすれた、疲れた人の声がしたのです。

弟を亡くしたばかりの女性が、弟の元恋人だった人と出会う。その人は、家事を手伝う小さな会社で働いていて、二人は一緒に、いろいろな家を訪ねることになる。料理の場面がたくさん出てきます。湯気の立つ鍋や、ていねいに切りそろえられた野菜。読んでいるあいだ、古い家の台所の、柱時計の音がしているような気がしました。

いちばん声が変わる一瞬は、弟の元恋人が作った一杯の煮麺を、主人公が初めて口にする場面です。言葉が何も出てこないのに、そこから、二人の声の調子が少しだけ変わっていくのです。

次点は『成瀬は信じた道をいく』で三票。四月の会で読んだ本の続きです。

エッセイと絵本と朗読は、今年も部門にはしていません。ただ、十一月の会の『ぐりとぐら』のあと、絵本に票を入れたいという声が二つありました。朗読では、ぼくが一票、古い怪談の新しい録音に入れました。来年は、この三つを小さな欄にしてもいいのでしょうか。取りまとめのロクに、相談してみるつもりです。

漫画部門 『ふつうの軽音部』クワハリ・出内テツオ

(草餅)

部室のすみで、女の子が、初めて自分のギターのケースを開ける。そのコマで、うちは一回止まった。

高校に入って、軽音部に入った女の子の話。音楽の趣味が少し渋くて、同じ一年生の輪の中に、うまく入れない。それでも、少しずつバンドを組んでいく。部室の空気、帰り道の自転車、練習スタジオの予約。何も特別じゃないことが、コマとコマのあいだに、ぎゅっと詰まってる。

見開きで、初めて人前で歌う場面がある。うちはそこで、本を閉じて、窓の外の夕焼け色をしばらく見ていた……

次点は一つずつに分かれた。漫画の部門は、三年続けて割れやすい。

アニメ部門 『ダンジョン飯』(テレビアニメ)

(凪)

一話目の、迷宮の奥で大きなサソリと歩くキノコを鍋にする場面から話させてください、あそこで、自分は深夜にカップ麺のお湯を沸かしに立ちました。

竜に妹を食べられてしまった剣士が、仲間と一緒に、迷宮の魔物を料理しながら奥へ戻っていく話で、笑える場面ばかりなのに、食べることが、そのまま生きることにつながっていく流れが、ここ、本当に、途中から胸にくるんです。

次点は劇場アニメの『ルックバック』で四票。去年の秋の会で読んだ漫画が動いた映画で、自分はそっちにも手帳の線を引きました。十一人全員が票を入れて、そのうち十人がこの二本のどちらかでした。最後の一周まで競り合った部門です。

ドラマ部門 『虎に翼』(連続テレビ小説)

(タカノツメ)

結論から言う。今年、小生を毎朝しびれさせたのは、半年間の朝ドラであった。

日本で初めて女性として法律の道に進んだ一人の、若い頃から晩年までの話である。戦争をはさみ、家族を失い、それでも法廷に立つ。

脚本が、一日十五分のなかで、毎日必ず一つ、あとから効く辛さを仕込んでくる。登場人物が口にする怒りや疑問が、その日のうちには答えが出ない。答えは、何週もあとに、別の人物の口から返ってくる。来週まで待てない、ではない。来月まで待たされる。それでも小生は、毎朝、会社に行く前に観た。

次点は『アンメット』で三票。今年は、いい脚本に二回、舌をしびれさせられた一年であった。

音楽部門 米津玄師「さよーならまたいつか!」

(栞)

曲が終わってから、しばらく朝の台所の湯気だけが見えていました。

音楽をいちばんよく聴いているメンバーが休んでいる今年、この部門の選評は私が書くことになりました。

朝ドラの主題歌として、毎朝流れていた曲です。半年間、ほぼ毎日聴いていたのに、聴き飽きた、という気持ちにならなかったのが不思議でした。明るいのに、どこか遠くへ手を振っているような響きがあって、朝の支度の順番の中に、それがそっと沈んでいく気がします。

票は三つ。音楽は、今年もいちばん票が割れた部門でした。次点のCreepy Nutsの曲は二票。一曲を何度も聴く人たちと、一枚を通して聴く人たち。来年は、アルバムに票を入れる人が、もう一人戻ってきてくれるはずです。

ゲーム部門 『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(HD-2D版)

(ヤギ)

最初の町を出て、橋を渡った。そこで手が止まった。

子どもの頃、親戚の家の古いゲーム機で少しだけ遊んだことがある。三十年以上前のゲームを、今の絵で作り直したものだ。仲間を酒場で集めて、船を手に入れて、世界を一周する。

昔の地図を、新しい光で歩く。夕方になると、町の影が長く伸びる。ここで一回コントローラーを置いた。

出たのが十一月。遊び終えた人は少なくて、票は七つ。次点の『知恵のかりもの』は二票。来年は、もっとゆっくり遊んだ人の票が入るはずだ。


投票したメンバーのひとこと

(灯)小説で『カフネ』に入れました。読み終えたのは夜の十一時すぎ。台所に立って、たぶん、少しだけ丁寧に、ほうじ茶をいれました。

(はるまき)ドラマは『虎に翼』です。毎朝、お弁当を詰めながら観ていました。最終週は、いや、ほんとに、卵焼きを焦がしちゃいました。

(めじろ)アニメで『ダンジョン飯』に入れました。上の子が横で観ていて、魔物の料理の場面になるたびに、これ食べられるの、と聞いてきます。そのたびに、あたしも分からなくて、一緒に笑いました。

(ぬか)わたくしは、もちろんアニメで『ダンジョン飯』です。迷宮の水炊きの場面で、白いごはんが欲しくなりました。いつか会で、漫画のほうの進行をさせていただきたいと思っておりました。


選考を終えて

(ロク)

十一人。四回目。

全員が票を入れたのは、アニメとドラマ。ドラマが全員そろったのは初めてだ。半年間、毎朝のことだったからだと思う。

来年、休んでいる一人が戻ってくる予定だ。そうすれば、また一人ぶん、表の行が埋まる。

投票したメンバー:灯・凪・ロク・栞・はるまき・ヤギ・めじろ・ぬか・草餅・こはぜ・タカノツメ(十一人)

(取りまとめ:ロク)

しずく大賞に戻る