ラルム / しずく大賞

2023.12.24第3回集計 ロク選評 ロク・灯・草餅・凪・タカノツメ・オト・ヤギ・こはぜ・栞・はるまき・めじろ・ぬか

第3回 しずく大賞(2023年) 結果と選評

開票の夜

(ロク)

十二月十七日、二十一時。票は十二。

今年も、票は都内の貸し会議室で開けた。来たのは六人。灯、凪、栞、はるまき、タカノツメ、僕。来られない六人には、画面をつないだままにした。見ていてもいいし、見ていなくてもいい。結局、画面の六人のうち三人が最後まで残った。

開けた順に書く。

最初はゲーム。八票のうち五票が同じ作品で、開けて三つ目で、ほぼ決まった。ヤギが画面の向こうで、小さく拳を握った。

次に音楽。四、三、二、一、一。最後の一票まで、どれになるか分からなかった。

アニメは十二人全員が票を入れた。開ける前から、たぶん誰も驚かないと思っていた。八票。

いちばん時間がかかったのは映画だった。五票と四票。僕の入れた一票が、どちら側だったかは書かない。

今年初めて投票した人が二人いる。五月に加わったこはぜと、十一月に加わったタカノツメだ。タカノツメには、加わって一か月で、ドラマ部門の選評を頼んだ。


結果

部門 大賞 票
小説 『水車小屋のネネ』津村記久子 11票中5票
漫画 『カグラバチ』外薗健 10票中4票
アニメ 『葬送のフリーレン』(テレビアニメ) 12票中8票
映画 『怪物』是枝裕和監督 10票中5票
ドラマ 『ブラッシュアップライフ』(バカリズム脚本) 11票中5票
音楽 スピッツ『ひみつスタジオ』 11票中4票
ゲーム 『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』 8票中5票

選評

小説部門 『水車小屋のネネ』津村記久子

(灯)

夏の終わりの夜、最後の頁を閉じました。窓の外で、虫が少しだけ鳴いていました。

十八歳の姉と、八歳の妹が、家を出て、山あいの町で暮らしはじめる。姉が見つけた仕事は、そば屋の手伝いと、水車小屋にいる一羽の鳥の世話でした。人の言葉をまねる、よくしゃべる鳥です。そこから四十年。二人と、鳥と、町の人たちの時間が、十年ごとに少しずつ進んでいきます。

大きな事件は、ほとんど起きません。誰かが誰かに、少しだけ親切にする。その親切が、何年もたってから、別の誰かに手渡されていく。たぶん、それだけの本です。

分厚い本なので、読み終えるまでに春から夏の終わりまでかかりました。票は五つ。次点は『成瀬は天下を取りにいく』で四つ。どちらも、読み終えたあとに、自分の住んでいる町を少し歩きたくなる本でした。

エッセイと絵本と朗読は、今年も部門にはしていません。ただ、こはぜが加わってから、朗読を聴く人が増えました。来年は、そちらの票も少しずつ見てみたいと思っています。

漫画部門 『カグラバチ』外薗健

(草餅)

刀を抜く一コマ。背景が真っ白に飛んで、刀の軌跡だけが残る。うちは、そのコマで息を止めた。

刀匠の父親を殺された息子が、父の打った妖刀を取り戻すために、刀を手に取る話。九月に連載が始まったばかりで、まだ単行本も出ていない。票を入れた四人は、全員が毎週の連載を追いかけていた人だ。

いつもは恋の話とか、青春の話に入れるうちが、今年は復讐の話に入れた。自分でも少し意外だった。でも、見開きの使い方が、ほんとうに気持ちいいんだ。静かなコマが何枚か続いて、次の見開きで、全部が一度に動く。コマとコマのあいだに、息を吸う時間がちゃんとある。

来年の今ごろ、この作品がどこまで行っているのか、うちはもう楽しみにしてる……

アニメ部門 『葬送のフリーレン』(テレビアニメ)

(凪)

第1話の、勇者の葬儀の場面で、エルフの魔法使いが、ようやく泣くところの話をさせてください。

魔王を倒した勇者たちが旅を終えて、それから五十年ほどたって勇者が亡くなる、という、普通なら物語が終わったあとのところから始まる話で、長く生きるエルフの主人公は、一緒に旅をした十年のあいだ、仲間のことをほとんど知ろうとしなかった自分に、そこで初めて気づくんです。

ここ、本当に、何回観ても、自分はあの場面で声が出なくなって、手帳に線を一本引いています。放送はまだ続いていて、この先どうなるかは分かりませんが、遅れても間に合うことがある、という話を、こんなに静かに描いたアニメを自分はほかに知りません。

十二人全員が票を入れて、八票。次点は『【推しの子】』と『君たちはどう生きるか』が二票ずつでした。二月の会で、この作品を取り上げるつもりです。

映画部門 『怪物』是枝裕和監督

(ロク)

同じ数日間を、三回観る映画だ。

ある小学校で、一人の男の子の様子がおかしくなる。母親は、担任の教師を疑う。そこまでが一回目。二回目は、同じ数日を教師の側から観る。三回目は、子どもたちの側から。

要するに、一つの建物を、三つの窓から覗く映画だ。窓が変わるたびに、同じ部屋の家具の配置が違って見える。一回目に画面の端に映っていたものが、三回目で、まったく別の意味で戻ってくる。

嵐の場面がある。そこから先のことは書かない。

票は五つ。次点の『ゴジラ-1.0』が四つ。今年いちばん開票に時間がかかった部門だ。

ドラマ部門 『ブラッシュアップライフ』(テレビドラマ・バカリズム脚本)

(タカノツメ)

結論から言う。今年のドラマで、小生がいちばんしびれたのは、地元の友だち三人がファミレスでどうでもいい話をしている場面である。

三十代の女性が亡くなり、あの世の受付で、来世は人間になれないと告げられる。それが嫌で、自分の人生をもう一度、赤ん坊からやり直す。徳を積むために。二周目、三周目と、人生が重ねられていく。

脚本が見事なのは、何度やり直しても変わらない会話を、毎回ちゃんと書くところなのだ。同じ友だちと、同じような話をする。そのくり返しが、あとから効いてくる。ぴりっとした辛さではない。気づいたら舌がしびれている。

小生は十一月に加わったばかりで、この作品を会で取り上げた四月の夜のことは知らない。記録で読んだ。次点の『いちばんすきな花』は三票。来週まで待てない、という気持ちを、今年いちばん長く味わわせてくれた二本であった。

音楽部門 スピッツ『ひみつスタジオ』

(オト)

五月。
夜勤明け。
雨上がりの、濡れた道。

一曲目で、声を聴いた。
何年たっても、同じ声だと思った。

二曲目から、歩く速さが少し上がる。
明るい曲が続く。
明るいのに、帰り道の街灯みたいに、少しさびしい。

アルバムの真ん中あたりで、信号が青になった。
渡らずに、もう一曲、待った。

票は四つ。今年いちばん割れた部門。
次点はYOASOBIの「アイドル」で、三つ。
一枚を通して聴く人と、一曲を何度も聴く人。
その両方が、表の中にいる。

ゲーム部門 『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』

(ヤギ)

空に浮かぶ島のふち。スティックを前に倒して、そのまま落ちた。何も押さなかった。

九月の会で、俺がみんなの前で遊んだゲームだ。前の作品と同じ大地の上に、空の島と、地の底が足された。遠くへ行ける場所が、上と下に増えた。

拾った板と車輪をくっつけて、乗り物を作る。うまく動かない。坂道で転がって、谷に落ちる。また作る。攻略の話はしないけど、このゲームでいちばん手が止まったのは、自分で作ったへんな乗り物が、はじめて向こう岸まで届いたときだった。

票は八人から集まって、五つ。去年より、遊んでいる人が二人増えた。次点は『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』。


はじめての一票と、ひとこと

(こはぜ)ぼくにとって初めての投票でした。小説で『水車小屋のネネ』に入れました。水車の回る音と、鳥の声が、読んでいるあいだずっと耳の奥で鳴っていたのです。朗読で聴いたら、どんな声になるのでしょうか。

(栞)音楽で『ひみつスタジオ』に入れました。一曲目の声が聞こえた瞬間に、学生の頃に聴いていた自分が、少しだけ隣に座った気がします。

(はるまき)ドラマは、やっぱり『ブラッシュアップライフ』です。四月の会で進行したので、ひいきかもしれません。いや、ほんとに、ファミレスの場面は何回観ても笑っちゃうんですよね。

(めじろ)十月に戻ってきて、今年は途中からの一票です。アニメで『葬送のフリーレン』に入れました。休んでいたあいだ、夜中に一話ずつ観ていて、あったかい毛布みたいな作品でした。

(ぬか)わたくしは映画で『怪物』に入れました。子どもたちが秘密の場所で過ごす場面の、なんでもない時間に、胸がつまりました。食べものの場面はほとんどありませんが、それでも一票でありました。


選考を終えて

(ロク)

十二人。三回目。

全員が票を入れたのは、今年もアニメだけだった。二年続けて、アニメの部門だけが全員そろう。

会で取り上げた作品が、ドラマとゲームの二つに入った。会で一緒に観た作品は、票が入りやすいのかもしれない。それが悪いとは思わない。同じ夜に同じ場面で黙った作品に、票が集まる。それが、この賞の骨組みだ。

来年も十二月にやる。

投票したメンバー:灯・凪・ロク・栞・はるまき・ヤギ・めじろ・オト・ぬか・草餅・こはぜ・タカノツメ(十二人)

(取りまとめ:ロク)

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