ラルム / しずく大賞

2022.12.25第2回集計 ロク選評 ロク・凪・はるまき・鹿の子・草餅・オト・ヤギ・灯・栞・めじろ・ぬか

第2回 しずく大賞(2022年) 結果と選評

はじめに

(ロク)

十一人。去年より二人多い。

決め方は去年と同じだ。その年に世に出た作品から、部門ごとに一人一票。最後まで体験した作品にだけ入れる。出来のよさではなく、心が動いた大きさで選ぶ。

今年から二つ変えた。

  • 結果の表に、次点を載せる。去年、次点を選評の中にしか書かなかったら、あとで探すのに手間がかかった
  • 部門を、票がまとまった順に並べる。どの部門で同じ場所に心が動いたのかが、上から順に分かる

集計は十二月十八日の夜。僕がやった。

場所は都内の貸し会議室。始まって三年で、初めて顔を合わせた。来たのは五人。灯、凪、はるまき、草餅、僕。ほかの六人は画面から見ていた。


結果

部門 大賞 票 次点
アニメ 『ぼっち・ざ・ろっく!』(テレビアニメ) 11票中7票 『チェンソーマン』(2票)
ドラマ 『silent』(生方美久脚本) 10票中6票 『鎌倉殿の13人』(2票)
小説 『汝、星のごとく』凪良ゆう 10票中5票 『方舟』夕木春央(3票)
漫画 『さよなら絵梨』藤本タツキ 10票中4票 票が一つずつに分かれた
映画 『ちょっと思い出しただけ』松居大悟監督 9票中4票 『コーダ あいのうた』(3票)
音楽 宇多田ヒカル『BADモード』 10票中4票 藤井風『LOVE ALL SERVE ALL』(3票)
ゲーム 『ELDEN RING』 6票中3票 『スプラトゥーン3』(2票)

「票」の左の数は、その部門に票を入れた人数。


選評

アニメ部門 『ぼっち・ざ・ろっく!』

(凪)

台風の夜の、客がほとんどいない小さなライブハウスで、主人公がギターを弾きはじめる回の話をさせてください。

人と話すのがどうしても苦手な高校生が、押し入れの中でひとりギターを弾き続けてきて、ひょんなことから小さなバンドに加わる、という話で、毎回、主人公の頭の中の混乱が、場面ごとにまったく違う絵で描かれるので、そこでまず笑ってしまうんです。

でも、ここ、本当に、演奏の場面になると空気が一変して、崩れかけた演奏を主人公がひとりで立て直そうと顔を上げる瞬間、自分は最後の一周で競り合っているときみたいに、背中が熱くなりました。

十一人全員が票を入れた、今年ただひとつの部門です。一月の会で、この回をみんなで観ることにしました。

ドラマ部門 『silent』(テレビドラマ・生方美久脚本)

(はるまき)

木曜の夜、子どもを寝かしつけてから、洗濯物を干しながら毎週観ていました。

高校のときに付き合っていた二人が、八年ぶりに再会する。そのあいだに、男の子のほうは耳が聞こえなくなっていた。そこから始まる話です。

いや、ほんとに、第1話の再会の場面で、洗濯ばさみを持ったまま動けなくなっちゃいました。街のざわざわした音の中で、彼にだけ音がない。それが、画面の音の作り方で分かるんです。

誰も悪い人がいないのに、誰かが一歩引かなきゃいけない。その切なさを、こんなに丁寧に煮込んだドラマは久しぶりでした。次点の『鎌倉殿の13人』は、一年かけて観た人だけが入れた二票です。

小説部門 『汝、星のごとく』凪良ゆう

(鹿の子)

ひとつの恋を、十五年という時間で描くと、それは恋の話であり続けられるのだろうか。

瀬戸内の島で育った少女と、母親とともに島へ越してきた少年。二人の十七歳から始まり、それぞれが島を出たり出られなかったりしながら、大人になっていく。筆者は読み進めるうちに、二人の人生を一枚の見取り図として眺めているような気持ちになった。同じ家の、違う部屋に住んでいる二人。壁一枚むこうの声が、聞こえたり聞こえなかったりする。

結末には触れない。ひとつ確かなのは、最初の数頁と最後の数頁が、遠く離れた部屋どうしで響き合っているということだ。

次点は『方舟』で三票。十月の会で読んだ本である。ところで、エッセイと絵本と朗読は、今年も部門にするほどの票は集まらなかった。絵本では、めじろが会で読んだ一冊とは別に、自分の子どもと読んだ新しい一冊を挙げていて、二人がそれに乗った。来年は、この三つの話ももっと聞きたいと思う。

漫画部門 『さよなら絵梨』藤本タツキ

(草餅)

スマホの画面の中の、病室。そのコマで、うちはページをめくる手が止まった。

病気の母親を撮り続けてほしいと頼まれた男の子が、そのあとで、ひとりの女の子と出会って、一緒に映画を撮ることになる話。読み切りで、二百ページくらい。ほとんど全部のコマが、スマホで撮った映像みたいに四角く並んでいる。

どこまでが本当で、どこからが映画なのか、読んでいるうちに分からなくなる。分からないまま、最後の見開きで、なんだか全部許されたような気持ちになった。……うまく言えない。

九月に入ったばかりで、選評を書かせてもらった。漫画は票がいちばん割れた部門で、次点は一票ずつ。うちは、それもこの一年らしいと思う。

映画部門 『ちょっと思い出しただけ』松居大悟監督

(ロク)

七月二十六日。六年ぶん。

照明の仕事をしている男と、タクシーの運転手をしている女。二人の恋を、毎年同じ日だけ、今から昔へさかのぼって撮る。

要するに、壊れた機械を、組み立てた順と逆に分解していく映画だ。最初に見るのは、もう動かなくなった後の姿。そこから一年ずつ部品が戻っていく。最後に、いちばん新しかった頃の二人が出てくる。そこで効く。

画面の端に、毎年同じように映るものがある。それが少しずつ変わっていく。気づいた人は、二回目を観ることになる。

次点は、十二月の会で観た『コーダ あいのうた』で三票。一票差だった。

音楽部門 宇多田ヒカル『BADモード』

(オト)

一月。
夜勤明けの、まだ暗い駅。
出たばかりの一枚を、ホームで再生した。

一曲目で、夜が少しゆるむ。
二曲目から、体の向きが変わった。

日本語と英語が、ふつうに混ざる。
意味を追わなくていい。
音が、帰り道の歩幅に合う。

最後の、長い曲。
始発の中で聴き終えた。
十分を超える。
窓の外が、紺から灰色へ。

一年、何度も戻ってきた一枚。
票は四つ。次点は藤井風の二枚目で、三つ。
二年続けて、その人の名前が表にある。

ゲーム部門 『ELDEN RING』

(ヤギ)

崖のふちで、スティックを倒したまま止まった。下に、見たことのない大地が広がっていた。

すごく難しいゲームだ。何回も倒れる。でも、俺がこのゲームで覚えているのは、倒れた回数じゃない。倒れて、戻って、また同じ崖に立ったときに、遠くにまだ行っていない城が見える、そのことだ。

地図に何も書いてない。どこへ行ってもいい。行った先で、また倒れる。ここで一回コントローラーを置いた、という場面が、今年は数えきれない。

票は六人から集まって、三つ。遊んでいる人が、去年より一人増えた。


投票したメンバーのひとこと

(灯)わたしは小説で『方舟』に入れました。十月の会のあと、二度目を読みはじめたら、一度目とはまったく違う本に見えました。たぶん、今年いちばん長く付箋を貼っていた本です。

(栞)音楽は『BADモード』に入れました。一枚を通して聴いたあと、しばらく部屋の空気が変わったままでした。終わったあとに残るものが、今年いちばん長かった気がします。

(めじろ)あたしはドラマで『silent』に入れました。手話の場面で、手と手のあいだの、何も話していない時間に、泣いてしまいました。来月から、しばらくお休みします。戻ってきたら、また一票入れさせてください。

(ぬか)わたくしはアニメで『ぼっち・ざ・ろっく!』に入れました。バンドの子たちが練習のあとに何を食べているのか、ずっと気になって観ておりました。票を開ける夜は、夜食に焼きおにぎりを用意しました。


選考を終えて

(ロク)

全員が票を入れたのは、アニメだけだった。

いちばん割れたのは漫画。次点が一つに決まらなかった。票が割れた部門ほど、会で話すことが多い。来年の会の候補は、たぶん漫画から出てくる。

去年は九人だった。今年は十一人。一人一票の重さは少し軽くなった。そのかわり、表の行が少しずつ埋まっていく。

選んだ作品には、賞品も盾もない。あるのは、このページと、冬の号に載る結果だけだ。それで十分だと、今年も思っている。

投票したメンバー:灯・凪・ロク・栞・はるまき・鹿の子・ヤギ・めじろ・オト・ぬか・草餅(十一人)

(取りまとめ:ロク)

しずく大賞に戻る