ラルム / しずく大賞

2021.12.26第1回集計 ロク選評 ロク・灯・凪・はるまき・オト・ヤギ・栞・鹿の子・めじろ

第1回 しずく大賞(2021年) 結果と選評

はじめに

(ロク)

投票したのは九人。部門は七つ。票を開けたのは十二月十九日の夜だ。

一滴舎で、その年いちばん心が動いた作品を選ぶのは今回が初めてになる。決め方は単純にした。

  • その年に世に出た作品から、部門ごとに一人一票
  • 自分が最後まで読んだ・観た・聴いた・遊んだ作品にだけ入れる
  • 体験した作品が少ない部門は、入れなくていい
  • 出来のよさではなく、心が動いた大きさで選ぶ

要するに、点数ではなく、しずくの大きさで決める賞だ。部門ごとの選評は、その媒体をいちばんよく浴びているメンバーが書いた。集計は僕がやった。


結果

部門 大賞 票
小説 『スモールワールズ』一穂ミチ 8票中5票
漫画 『ルックバック』藤本タツキ 9票中7票
アニメ 『オッドタクシー』(テレビアニメ) 8票中4票
映画 『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督 7票中5票
ドラマ 『大豆田とわ子と三人の元夫』(坂元裕二脚本) 8票中6票
音楽 藤井風「きらり」 9票中4票
ゲーム 『モンスターハンターライズ』 5票中3票

「票」の左の数は、その部門に票を入れた人数。


選評

小説部門 『スモールワールズ』一穂ミチ

(灯)

夜の十時すぎに、六つ目の話を読み終えました。そのまま、しばらく電気をつけずにいました。

六つの短い話が入った本です。家族の話もあれば、見知らぬ人どうしの話もあります。明るい話と、読むのが少しつらい話が、交互にやってきます。

わたしがいちばん長く止まったのは、背の高い姉が実家に戻ってくる話でした。弟の目から見た姉は、乱暴で、可笑しくて、でもどこか無理をしている。読みながら何度も笑って、最後に少しだけ泣きました。夕方の光が急に傾くような終わり方です。

もうひとつ、手紙だけで進む話があります。取り返しのつかないことをした人と、それをされた側の人とのあいだで、何年もかけて手紙が行き来する。言い切らない言葉が、たぶんいちばん重かったです。

票を入れたのは五人でした。次に票が集まったのは朝井リョウの『正欲』です。どちらも、読み終えてからすぐに感想を言えない本でした。

エッセイと絵本と朗読は、今年は数が少なく、部門にはしていません。来年は、この三つにも票が集まるような一年にしたいと思っています。

漫画部門 『ルックバック』藤本タツキ

(凪)

主人公が、雨の中を走って帰る見開きの話をさせてください。

学年新聞に四コマを描いていた少女が、学校に来ない同級生の家に卒業証書を届けに行って、そこで思いがけない言葉をかけられて、帰り道の雨の中を、傘もささずに跳ねるように走っていくんです。ここ、本当に、背中が熱くなるどころの話じゃなくて、読みながら自分まで一緒に水たまりを蹴っている気分になりました。

後半には、読む人によってはとてもつらい出来事が描かれます。そこには触れませんが、描くことをやめなかった人の話として、自分はこの作品を何回でも読み返すと思います。百四十ページほどの読み切りで、一晩で浴びきれます。

九人全員が読んでいて、七人が票を入れました。今年いちばん票が割れなかった部門です。

アニメ部門 『オッドタクシー』(テレビアニメ)

(凪)

一話目の、ほとんどがタクシーの中の会話で進んでいく作りに、最初は正直、戸惑ったんです。

動物の姿をした人たちが出てくる、かわいい絵柄の作品なのに、話しているのは借金や、人に言えない欲や、行方の分からなくなった女子高生のこと。人づきあいの苦手なタクシー運転手の車に、毎回ちがう客が乗ってきて、その会話の端々が、あとになって一本の線につながっていきます。

何回観ても、最終話のいちばん最後の場面で、自分は背筋が冷たくなります。泣く作品でも熱くなる作品でもないのに、今年いちばん声が出ました。

票は四つで、次に多かったのは『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の三票でした。最後まで二つの作品で競った部門です。

映画部門 『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督

(ロク)

上映時間は百七十九分。三時間に一分だけ足りない。

妻を亡くした演出家が、広島の演劇祭に呼ばれる。赤い車の運転を、若い女性の運転手に任せることになる。車の中では、亡き妻が台本を読み上げた録音がいつも流れている。

僕が動かされたのは、車が走っている時間そのものだ。画面の端に流れていく景色と、座っている二人の距離が、話が進むにつれて少しずつ変わる。建物の骨組みが一本ずつ組み上がっていくように、二人の言葉が増えていく。

終盤、多くの言語が交じる舞台で、声を使わない台詞がある。あの場面で、劇場の空気が変わった。

票は五つ。次点は『花束みたいな恋をした』。今年、恋の映画に票が入ったのは意外だった。

ドラマ部門 『大豆田とわ子と三人の元夫』(テレビドラマ・坂元裕二脚本)

(はるまき)

子どもが寝たあと、毎週火曜の夜は洗い物を後回しにしていました。

三回結婚して、三回離婚した女性と、その三人の元夫たちの話です。元夫たちがなぜか今も彼女のまわりをうろうろしていて、その会話がいちいち可笑しいんですよね。語りの声も、ちょっとした言い回しも、全部がちょうどいい煮込み具合で、毎週笑って観ていました。

でも、いや、ほんとに、中盤のある回からはもう、笑いながら泣いていました。何が起きるかは書きませんが、大切な人がいなくなったあとの暮らしを、こんなに軽やかに、こんなにちゃんと描いたドラマを、はるまきはほかに知りません。

六票。次点は『おかえりモネ』でした。どちらも、観終わったあと少し元気になれる作品です。

音楽部門 藤井風「きらり」

(オト)

夜勤明け。
車に乗って、エンジンをかけて、一曲だけのつもりで再生した。

気づいたら、家の前で五回目。

軽い。
軽いのに、ちゃんと遠くまで連れていかれる。
夜明け前の、信号がまだ点滅している交差点。
あの時間に、いちばん似合う曲だった。

票は四つ。次点はYOASOBIのアルバム『THE BOOK』で、三つ。七月の会で取り上げたアルバムだ。
加わって半年足らずで選評を書くことになった。
来年も、夜の帰り道の一枚を探す。

ゲーム部門 『モンスターハンターライズ』

(ヤギ)

里の門を出て、相棒の犬に飛び乗った。そこで一回、コントローラーを置いた。

狩りのゲームだ。巨大な生き物を追いかけて、倒して、また追いかける。それだけのはずなのに、今作は移動が気持ちいい。虫の糸を使って、崖を一気に駆け上がる。犬の背に乗って、谷を越えて、遠くの山まで走っていける。

手が止まったのは、里に大群が押し寄せてくる戦いのときだった。里の人たちの顔を思い出して、柄にもなく熱くなった。

ゲームを遊んでいるメンバーは、まだ少ない。票は五つしか集まらなかった。そのうち三つ。来年はもっと、俺以外の人にも遊んでほしい。


投票したメンバーのひとこと

選評を書かなかった三人にも、今年の一票について一言ずつ書いてもらった。

(栞)音楽は「きらり」に入れました。車の中ではなく、雨の日の部屋で聴いていたのですが、それでも遠くへ運ばれていく気がしました。票を開ける順番で、少しだけ手に汗をかきました。

(鹿の子)筆者は小説部門で『正欲』に入れたが、『スモールワールズ』が選ばれたことにまったく異論はない。ところで、二冊とも、読み終えてから誰かに話したくなるのに、何から話せばいいか分からなくなる本だった。ひとつ確かなのは、来年の読書会でも、この二冊の話が出るだろうということだ。

(めじろ)あたしは漫画の部門で『ルックバック』に入れました。夜、ひとりで読んで、ページをめくる手が、しばらく動かなくなりました。絵を描くのが好きな子に、いつか渡したい一冊なんだなあと思っています。


選考を終えて

(ロク)

七つの部門で、票がいちばんまとまったのは漫画。いちばん割れたのは音楽とアニメ。

票が割れるのは悪いことではない。同じ一年でも、心が動いた場所は人によって違う。それが見えたのが、今回いちばんの収穫だ。

選んだ作品には、賞品も盾もない。あるのはこのページと、しずく通信の冬の号に載る結果だけだ。それで十分だと思っている。

来年も十二月にやる。投票できるのは、その年の十二月にいる全員だ。

投票したメンバー:灯・凪・ロク・栞・はるまき・鹿の子・ヤギ・めじろ・オト(九人)

(取りまとめ:ロク)

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