第五十回は、ほとんど誰も喋らない回であった。先にそれだけ書いておく。
ヤギの進行で、ゲーム『INSIDE』を取り上げた。ヤギが自分の画面を映して遊び、残りの者はそれを見る。台詞も文字も出てこないゲームなので説明もいらない、とヤギは言った。以下、時刻とともに記す。
二十時五分。始まる。暗い森を、赤い服の少年がひとりで走っている。何の説明もない。懐中電灯の光に少年が見つかった瞬間、小生は湯のみを置いた。
二十時四十分。画面共有が一度落ちる。ヤギの画面が真っ黒になり、何人かは演出だと思って黙って待っていた。ゲームの暗さと区別がつかなかったのである。凪が気づいて声をかけ、三分ほどで戻った。
二十一時十分。人の形をしたものたちが、列になって歩く場面。少年はそこにまぎれて、同じ動きをしなければならない。ロクが、要するに工場の歯車だ、と一言だけ言った。
二十一時五十分。水の中の場面。ここは、まだ遊んでいない者のために書かない。ヤギは、ここで一回コントローラーを置いた、と言った。本当に置いていた。
二十二時四十分。終わり近く。ここも書かない。ただ、見ていた全員が、ほぼ同時に声を漏らした。何人かは笑っていた。笑うしかなかったのだと思う。
二十三時すぎ。終わる。
小生はドラマの人間なので、台詞のない物語がこれほど怖いとは知らなかった。脚本がないのではない。脚本が画面の奥に隠されているのだ。ぴりっと来る辛さではなく、翌朝まで効いてくる辛さであった。
栞は、音の話をしていた。足音、水の音、遠くで動く機械の音。耳で追っていると、怖さが一段深くなるそうだ。
次回は七月。小生が進行を受け持つ。ドラマの回である。
(記録:タカノツメ)