夏の号のはじめに
(はるまき)
冷やし中華のたれを、今年は自分で作ってみました。酢を入れすぎて、家族にむせられちゃいました。
七月で、しずく通信は創刊から三年になります。十三号目です。創刊号を読み返したら、最後に「次の号は十月」と書いてあって、そのとおりに十三回続いたんだなあと思うと、ちょっと不思議な気持ちです。
五月からは、こはぜが加わりました。朗読の好きな大学生です。紹介は、朗読の回をいっしょに進めた栞に書いてもらいました。
もくじ
- 夏の号のはじめに(はるまき)
- 感情浴会の記録 第36回〜第38回
- こはぜのこと(栞)
- 寄稿 耳で読む怪談(こはぜ)
- 寄稿 夏の終わりの映画(ロク)
- 夏の選書
- 次の会
感情浴会の記録
| 回 | テーマ | 作品 | 進行/記録 | その夜のひとこと |
|---|---|---|---|---|
| 第36回(四月) | やり直したくなりたい | 『ブラッシュアップライフ』(テレビドラマ・バカリズム脚本) | はるまき/草餅 | 会のあと、しばらく話していなかった地元の友だちに連絡した(草餅) |
| 第37回(五月) | ほどけたい | 宇多田ヒカル『BADモード』 | オト/栞 | 二曲目から、体の向きが変わる(オト) |
| 第38回(六月) | 寂しさに浸りたい | 夏目漱石『夢十夜』(朗読で聴く) | 栞/こはぜ | 縁側にしばらく座っているような夜でした(こはぜ) |
四月は、三月まで放送されていたドラマを、はるまきが終わったらすぐやりたいと言って持ってきました。亡くなった女性が、自分の人生をもう一度やり直す話です。主人公が大人の頭のまま小学生に戻って授業を受ける場面で、はるまきはずっと笑っていました。
五月は、オトの進行で一枚を通して聴く回。こはぜの最初の会でした。オトからの付け加えは、部屋の明かりを落とすこと。終わり近くの長い曲が遠ざかっていくのを、誰も止めようとしなかった、と栞の記録にあります。
六月は、十ある夢のうち三つを、画面を消して、部屋を暗くして聴きました。こはぜは雨戸を閉めて、柱時計の音だけがする部屋で聴いていたそうです。入って二回目の会で、初めての記録でした。
こはぜのこと
(栞)
最初のあいさつの声が、思っていたより落ち着いていて、画面の向こうが少し静かになったのを覚えています。
こはぜは、朗読や音声の作品を記録してくれる大学生です。古い物語の朗読と、ラジオドラマが好きで、倍速では聴かない主義。五月の音楽の回で、歌声が近くなったり遠くなったりするのが、雨戸越しに誰かの声を聴いているようだった、と話していて、初めての会とは思えないことばだと思いました。
朗読の回を、これから一緒に作っていけたらうれしいです。
寄稿 耳で読む怪談
(こはぜ)
一行目の声が、思っていたよりずっと明るかったのです。それが、いちばん怖かった。
怪談は、目で読むより、耳で聴くほうが怖いとぼくは思っています。目で読むときは、怖い場面が来そうになると、少し先の行をちらりと見てしまえます。耳では、それができません。声が進む速さでしか、話は進まない。次の角を曲がるまで、何が待っているか分からないのです。
泉鏡花の『高野聖』は、旅の僧が山中の一軒家に泊まった夜の話です。聴いていると、声がゆっくりになるところで、こちらの息もゆっくりになります。山道の湿った空気や、ひとつ家の女の人の気配が、耳の奥で少しずつ近づいてきます。何が怖いのかを、はっきりとは言わない話です。
岡本綺堂の怪談も、よく聴きます。人が集まって、一人ずつ怖い話を語っていくという形の話が多く、朗読で聴くと、自分もその座敷の隅に座っているような気がしてきます。障子の向こうで、誰かが足を止める。そういう音のない場面ほど、声が変わる一瞬がくるのです。
いつか会で、怪談を朗読で聴く回ができたらと思っています。夏の夜、雨戸を閉めて。
寄稿 夏の終わりの映画
(ロク)
夏休みは四十日ほどある。そのうち最後の三日は、それまでの三十七日と重さが違う。
夏の終わりの映画とは、その最後の三日の映画のことだ。
『菊次郎の夏』。北野武監督。夏休みに、母親に会いに行く少年と、ろくに働かない中年の男の、あてのない旅。道中は、ほとんどがくだらない遊びだ。画面の端に、いつも青い空がある。その空が、旅の終わりに近づくにつれて、少しずつ遠く見えてくる。
『スタンド・バイ・ミー』。四人の少年が、線路を歩いて一泊の旅に出る。要するに、たった二日の話だ。だが、最後の数分で、その二日がどれだけ遠い昔になったかが分かる。組み立ては単純で、骨組みが見えているのに効く。
どちらも、観終えたあとに、夏が一つ終わる。まだ七月なら、観るのは早い。八月の最後の週まで、取っておくこと。
夏の選書
『TARI TARI』(テレビアニメ)
選んだ人:凪。海の近くの高校で、合唱をやりたい子たちが集まる話で、最後の数話の、歌の場面で、自分は何回観ても喉がつまるんです。
『海が走るエンドロール』たらちねジョン(漫画)
選んだ人:草餅。夫を亡くした女の人が、映画を撮りたいと思いはじめる話。夜の海の見開きで、うちは一回、本を閉じた。
『ロング・バケーション』(テレビドラマ)
選んだ人:はるまき。夏休みじゃなくて、人生のちょっと長いお休みの話です。家族が寝たあと、一話ずつ。
サカナクション『834.194』(音楽)
選んだ人:オト。二枚組。一枚目は街の夜、二枚目は、もっと遠くの夜。帰り道に、二枚目から。
次の会
- 第39回(七月) テーマ「おなかを空かせたい」。映画『南極料理人』。ぬかの初めての進行です。記録はロク。
- 第40回(八月) テーマ「熱くなりたい」。映画館で上映が続いているアニメ映画を、それぞれ観てきてから話します。進行は凪、記録はヤギ。
しずく通信 第13号 2023年7月 編集:はるまき