十号目のごあいさつ
(はるまき)
この号で、しずく通信は十号目になりました。
創刊号を作ったのは、はるまきが加わってひと月の頃でした。家族が寝たあとの一時間で、栞のメモを何度も読み返して、洗濯物をたたむ手を止めながら書いたのを覚えています。あれから二年と三か月。会は二十九回になり、寄稿はこの号の二本を入れて二十本になりました。
長く煮込んだ鍋みたいに、号を重ねるほど、中身の味がなじんできた気がします。いや、ほんとに、最初の頃の号を読み返すと、ちょっと照れちゃうんですけどね。
九月からは、草餅が加わりました。十一人です。
もくじ
十号目のごあいさつ(はるまき) / 感情浴会の記録 第27回〜第29回 / 草餅のこと / 寄稿 短編集を人に渡す(草餅) / 寄稿 夜更けのアルバム(オト) / 秋の選書 / 次の会
感情浴会の記録
今回は、それぞれの記録係の書き出しを一行ずつ借りて、まとめました。
第27回(七月) 懐かしみたい 『MOTHER2 ギーグの逆襲』
扇風機を弱にして、慣れないコントローラーを膝に置きました。(記録:灯)
進行はヤギ。二十八年前の夏に出たゲームを、ヤギが決めた範囲まで、それぞれ遊んできました。子どもの頃に遊んだことがあるのは、十人のうち四人。遊びはじめに好きな食べものを入れる画面があって、凪はカレー、ぬかはぬか漬けと入れていました。灯は、夏の夜に男の子が家を出ていく最初の場面で、実家の網戸の音を思い出したそうです。会のあと、用事もないのにお母さんに電話をした、と書いてありました。
第28回(八月) 笑いたい 『カメラを止めるな!』上田慎一郎監督
観終えて最初に食べたくなったのは、冷やし中華でありました。(記録:ぬか)
進行はロク。十人全員が同じ時間に再生しました。ロクの注意は、はじめの三十七分は何があっても止めないこと、そこでどう感じたかをまだ誰にも言わないこと。後半のことは、ここにも書きません。途中で記録係のマイクが五分ほど音を拾わなくなって、そのあいだ、ぬかはひとりで声を出して笑っていたそうです。
第29回(九月) 考え込みたい 『平家物語』(テレビアニメ・山田尚子監督)
琵琶を抱えた女の子が、ひとりで川べりに座っている。(記録:草餅)
進行は鹿の子。加わったばかりの草餅が、最初の会でいきなり記録を引き受けてくれました。全話をそれぞれ観てきて、当日は第1話と最終話を同じ時間に再生しています。十一人のうち十人で、オトは夜勤で欠席。鹿の子の問いは、この物語は誰のために語られているのか。答えは、まだ出ていないそうです。
草餅のこと
九月から加わった草餅は、漫画の記録を担当してくれます。大学生で、少女漫画も青年漫画も読む人です。好きな短編集を人に渡すのが趣味だと聞いて、さっそくそのことを書いてもらいました。
寄稿 短編集を人に渡す
(草餅)
右ページのいちばん下の小さなコマで、男の子が、ほんの少しだけ笑う。うちはそのコマのために、この本を人に渡している。
和山やまの『夢中さ、きみに。』。男子高校生たちの、変わっているけど、どこにでもありそうな日々の短い話が集まった一冊。大きなことは何も起きない。でも、コマとコマのあいだに、言わなかった言葉がちゃんと置いてある。
短編集を人に渡すとき、うちは、どの話から読んでほしいかを付箋に書いて挟む。最初の話からじゃなくていい。その人がいま疲れているなら、いちばん短い話。落ちこんでいるなら、最後の話。付箋を一枚選ぶだけで、渡すほうもけっこう緊張するんだ。
高野文子の『棒がいっぽん』は、渡した相手が半分くらいの確率で、分からなかった、と言って返してくる。それでいいと思ってる。三年後くらいに、もう一回読んでみて、と言って、また渡す。
去年出た『藤本タツキ短編集 17-21』は、まだ誰にも渡せていない。見開きで何度も本を閉じてしまって、自分が読み終わらないから……
この秋、誰かに一冊渡すなら、若葉みたいな色の付箋を挟んで渡したいな。
寄稿 夜更けのアルバム
(オト)
夜勤のない日の、零時すぎ。
眠れない。
眠れないのは、昼に眠ったから。
そういう夜に聴く一枚。
細野晴臣の『HOSONO HOUSE』。
五十年近く前の録音。
自分の家で録ったらしい。
だから、部屋の音がする。
床のきしみのような。
二曲目から、夜が少しやわらかくなる。
窓の外の街灯が、なぜか遠く見える。
もう一枚。
Nujabesの『modal soul』。
歌の少ない一枚。
ピアノと、乾いた太鼓。
街灯の下を、歩いているような拍。
どちらも、夜明け前には聴かない。
夜明け前は、始発の一枚の時間だから。
夜更けと夜明け前は、同じ夜でも、別の道。
秋の選書
『容疑者Xの献身』東野圭吾(小説)
選んだ人:鹿の子。天才的な数学教師が、隣に住む母娘のために、ある図面を引く。その図面の本当の形を、結末の手前で知ることになるだろう。
『停電の夜に』ジュンパ・ラヒリ(小説)
選んだ人:灯。短い話がいくつか入った本です。表題の話は、停電の続く数日間、夫婦が暗い部屋で少しずつ話をする話。秋の夜に、明かりを少しだけ落として。
『羊たちの沈黙』ジョナサン・デミ監督(映画)
選んだ人:ロク。ガラス越しの会話。画面の中心より、画面の端に目がいく。
『もりのなか』マリー・ホール・エッツ(絵本)
選んだ人:めじろ。男の子が、紙のぼうしをかぶって森へ散歩にいく。白と黒だけの絵なのに、読み聞かせのとき、森のにおいがする気がするんだなあ。
次の会
- 第30回(十月) テーマ「ぞくっとしたい」。夕木春央の小説『方舟』。先月出たばかりの本です。進行は鹿の子、記録はオト。結末には触れない約束は、今回も同じです。
- 第31回(十一月) テーマ「癒されたい」。テレビアニメの回です。草餅の初めての進行で、記録は凪。
しずく通信 第10号 2022年10月 編集:はるまき