この号の中身
感情浴会の記録(第15〜17回)/オトのこと/寄稿「始発までの一枚」(オト)/寄稿「秋の夜長の映画」(ロク)/秋の選書/次の会
(はるまき)
栗ごはんを炊こうとして、皮をむくのに一時間かかりました。来年は皮むき器を買います。
この夏の三回は、聴いて、聴いて、食べる、の三回でした。読む、観る、遊ぶ、に続いて、会のやり方がまたひとつずつ増えていく感じがして、はるまきはうれしいです。八月からはオトが加わって、また九人になりました。
今号は寄稿がふたつとも夜の話になりました。示しあわせたわけではありません。
感情浴会の記録
第15回(七月) 元気を出したい YOASOBI『THE BOOK』
進行:栞 記録:ヤギ
一枚を、曲順どおり、飛ばさずに。前の音楽の回と同じ決まりです。聴き終わってすぐ、凪が、この中の一曲は四月に読んだ『ブルーピリオド』とつながっている、と言い出しました。三か月前に同じ画面で話していた漫画が、歌になって戻ってきたわけです。記録のヤギは、会の次の朝にこの一枚を聴きながら歩いていたら、気づいたら近所の坂を走って上っていた、と書いています。
ひとことで言うと、元気は足から来る回。
第16回(八月) 静まりたい 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』(朗読で聴く)
進行:栞 記録:オト
栞の決まりは、画面を消して、目を閉じて聴くこと。九つの画面が、順に暗くなりました。加わったばかりのオトが、最初の会でいきなり記録を引き受けてくれています。灯は途中で眠ってしまいそうになって、それがかえって正しい聴き方の気がした、と。めじろの膝の上では、途中で起きてきた子どもが一緒に聴いていたそうです。
ひとことで言うと、誰も急がなかった回。
第17回(九月) おなかを空かせたい 『きのう何食べた?』よしながふみ
進行:はるまき 記録:鹿の子
第1巻だけを読んできて、九人全員がそろいました。毎晩の夕食を作る男性の話で、材料の値段から段取りまで、ほとんど省かれずに描かれます。はるまきは、主人公が買い物の帰りに冷蔵庫の中身を頭の中で並べ直す場面で照れちゃいました。自分とまったく同じだったので。記録の鹿の子は、会のあと夜中の零時すぎに台所に立ったそうです。
ひとことで言うと、会のあとに台所が混んだ回。
オトのこと
八月から加わったオトは、音楽の記録を担当してくれます。夜勤のある仕事をしていて、帰り道に一枚を通して聴くのが習慣だそうです。最初の会で記録係を頼んだら、ふたつ返事で引き受けてくれました。その記録は、短い行がたくさん並んでいて、読むと夜の道を歩いている気分になります。
さっそく寄稿もお願いしました。
寄稿 始発までの一枚
(オト)
夜勤明け。四時五十分。
駅のベンチ。
始発まで、あと二十分。
この時間に聴く一枚は、決めてある。
キース・ジャレットの『ザ・ケルン・コンサート』。
ピアノが一台。歌はない。
一曲目が、長い。
最初の音が鳴ったとき、ホームの向こうの信号はまだ赤。
点滅していない赤。
それが、少しずつ白っぽく見えてくる。空のほうが先に明るくなるから。
誰もいないホームで、足の先だけで拍を取っている。
始発が来ても、まだ一曲目。
二曲目は、電車の中で。
二曲目から、体の力が抜ける。
窓の外の街灯が、ひとつずつ消えていく。
一枚が終わるころには、家の前。
鍵を開けて、そのまま眠る。
これから、この欄で、そういう一枚をいくつか書いていく。
夜明け前に聴けるものだけ。
寄稿 秋の夜長の映画
(ロク)
十月の日の入りは、七月より一時間半ほど早い。
その一時間半をどう使うか。僕の答えは、長い映画だ。
『七人の侍』は、二百七分ある。途中に休憩が入る。村を守るために、侍が一人ずつ集められていく。前半は、ほとんど人集めの話だ。要するに、機械の部品を一つずつ揃えていく時間が長い。揃ったあとの後半で、その部品が一つずつ欠けていく。長いからこそ、欠けたときに効く。
『ゴッドファーザー』は、百七十五分。最初の結婚式の場面だけで、三十分近くある。画面の端に、あとで大事になる人物がちゃんと映っている。二度目に観ると、それが全部分かる。
長い映画は、休日の昼に観るものだと思われている。僕は反対だ。夜、部屋を暗くして、途中で止めない。終わるころには日付が変わっている。その時間の感じ方ごと、映画の一部だと思う。
翌日が早番なら、観ない。これは前にも書いた。
秋の選書
今号は三つだけ。
『月の満ち欠け』佐藤正午(小説)
選んだ人:灯。何十年もかけて、ひとつの約束をめぐる話です。月が細い夜に、少しずつ。
『14ひきのおつきみ』いわむらかずお(絵本)
選んだ人:めじろ。ねずみの家族が、木の上で月を待つ絵本です。読み聞かせのとき、子どもと一緒に、窓の外の月をさがしました。
『蟲師』(テレビアニメ)
選んだ人:凪。一話ずつ完結する、静かな話ばかりなんですけど、自分は秋になると、なぜか毎年最初から観なおしてしまうんです。
次の会
- 第18回(十月) テーマ「驚きたい」。綾辻行人『十角館の殺人』。進行は鹿の子、記録は灯。鹿の子から約束がひとつ。結末には、どんな形でも触れないこと。
- 第19回(十一月) テーマ「ひとりを味わいたい」。進行は灯、記録はロク。エッセイを読む予定です。
しずく通信 第6号 2021年10月 編集:はるまき