はじめに
(はるまき)
梅雨の晴れ間に、布団を三枚まとめて干しました。夕方に取りこんだら、お日さまのにおいがしました。
この号には、少しさびしいお知らせがあります。六月で、十一が一滴舎を離れました。就職して、夜の時間がなかなか取れなくなったためです。五月の会の最後に、本人から短いあいさつがありました。そのあと、会報に載せてほしいと、ことづけを預かっています。いちばん最初に置きます。
もくじ
- はじめに(はるまき)
- 十一からのことづけ
- 感情浴会の記録 第12回〜第14回
- 寄稿 子どもと読む夏の絵本(めじろ)
- 寄稿 夕立の音(栞)
- 春の号の答え合わせ(凪)
- 夏の選書
- 次の会
十一からのことづけ
逆光の窓。画面の向こうに、八人ぶんの小さな四角。
五月の会で、ワタシは最後の進行をした。一年半のあいだ、この集まりにいたことになる。
創刊号に、背景の空の話を書いた。人物が何も言わないとき、背景が代わりに言っている、と。この会も同じだったと思う。作品が終わって、誰もマイクをつけない数秒。暗くなった画面に、それぞれの部屋の明かりだけが映っている。一枚の絵として思い出すなら、あの数秒である。
つまり、光。消えた画面にも、何かが映っていた。
記録は残るそうだ。ワタシも、どこかで空を観ている。
感情浴会の記録
第12回(四月) 背中を押されたい 『ブルーピリオド』山口つばさ
進行は灯、記録は凪。今月から加わっためじろも入って、九人そろった最初の会でした。器用に何でもこなしてきた高校生が、一枚の絵に出会って、美術の大学を目指して走り出す話です。第1巻と第2巻まで。凪は、主人公が明け方の街を、自分の目に見えたとおりの色で塗る場面で、一度本を閉じて深呼吸をしたそうです。めじろは、主人公のお母さんの側から見た進路の話をしてくれて、それは誰も思いついていなかった見方でした。
第13回(五月) 切なくなりたい 『花束みたいな恋をした』土井裕泰監督・坂元裕二脚本
進行は十一、記録ははるまき。映画館での上映が続いていたので、それぞれ観てきてから、日曜の夜に話しました。好きな本や音楽がぴったり同じだった二人の、五年間の話です。十一は、はじめのほうの夜道で並んで歩く二人を、一枚の絵として観た、と話していました。二人のあいだの隙間が、あとの場面になるほど広く撮られていく、と。十一が進行をしたのは、この回が最後です。
第14回(六月) ほどけたい 『かもめ食堂』荻上直子監督
進行はロク、記録はめじろ。めじろの初めての記録です。北の国の街で、日本人の女性がひとりで小さな食堂を開く話で、同じ時間に再生してから話しました。お店にシナモンロールの焼けるにおいが広がる場面で、部屋の空気がやわらかくなった気がした、とめじろは書いています。ロクは最後に、今日は誰も何も決めなくていい回だった、と言っていました。
寄稿 子どもと読む夏の絵本
(めじろ)
夏やすみの前の日、寝る前に読んでと持ってこられたのは、『せんたくかあちゃん』でした。
さとうわきこの絵本です。せんたくが大好きなかあちゃんが、なんでもかんでも洗ってしまう。子どもも、ねこも、空から落ちてきたかみなりさままで。読み聞かせのとき、あたしはいつも、かあちゃんの声だけ少し大きくします。子どもは毎回、同じところで笑います。
夏の絵本は、外のにおいがするものがいいなあ、と思っています。田島征三の『とべバッタ』は、小さなバッタが、こわいものから逃げるのをやめて、思いきって跳ぶ話です。絵の線が強くて、ページをめくる手に、ちょっと力が入ります。読み終えると、子どもがかならず、ふとんの上で跳ねます。
夜がこわい日には、せなけいこの『ねないこだれだ』。これは夏にかぎらないけれど、窓をあけて寝る季節のほうが、よく効く気がします。読み終えると、子どもがあたしの腕にしがみついてくるので、あたしも、ちょっとだけ安心します。
どれも、あたしが子どものころに読んでもらった本です。ほつれかけた毛布を、自分の子どもにかけているみたいな気持ちになるんだなあ。
寄稿 夕立の音
(栞)
雷が遠ざかったあとの、雨だけが残っている時間が好きです。
夕立は、始まり方と終わり方がはっきりしています。空が暗くなって、最初の大きな粒が窓に当たる。そこから十分か二十分、音が部屋を満たして、ある瞬間にふっと細くなる。その順番が、一曲の音楽によく似ている気がします。
夕立の日には、ショパンの「雨だれ」と呼ばれる前奏曲を一度だけかけます。同じ音が、最初から最後まで、ずっと鳴りつづけている曲です。外の雨と、曲の中の雨が重なって、どちらの音を聴いているのか分からなくなる瞬間があります。
春の選書で十一が挙げていた『言の葉の庭』も、雨の音がとても丁寧に録られた映画でした。観終わってから、窓を開けて、外の音をしばらく聴いていました。
夕立のあとの道は、少しだけ冷たい匂いがします。その匂いまでが、一曲の余韻のように残りました。
春の号の答え合わせ
(凪)
前の号で、春に始まった二つのアニメのどちらが最後まで残るか、夏の号で答え合わせをすると書きました。
答えは、両方です。ただ、残り方がまったく違っていて、ひとつは最終話の最後の数秒で背筋が冷たくなって、ひとつは最終話のあと、自分もどこか遠くまで走りたくなりました。どっちがどっちかは、観た人なら分かると思います。
夏の選書
『ジュラシック・パーク』スティーヴン・スピルバーグ監督(映画)
選んだ人:ロク。コップの水が揺れる。それだけで怖い。夏休みの昼に。
山下達郎『FOR YOU』(音楽)
選んだ人:栞。窓を開けて、一枚通して。曲と曲のあいだに、外の蝉の声が入ってくるのも含めて。
『ペンギン・ハイウェイ』森見登美彦(小説)
選んだ人:鹿の子。住宅街に突然ペンギンが現れる謎を、小学四年生が本気で研究する。謎そのものより、研究ノートのつけ方に筆者は感心した。
『ぼくのなつやすみ』(ゲーム)
選んだ人:ヤギ。田舎で過ごす、ひと月の夏休み。虫を捕って、川に入って、夕方に帰る。最後の日に手が止まった。
『サマータイムレンダ』田中靖規(漫画)
選んだ人:凪。島に帰ってきた少年が、同じ夏の数日を何度も繰り返す話で、一度読み始めたら最後の一周まで止まれないんです。
次の会
- 第15回(七月) テーマ「元気を出したい」。YOASOBIのアルバム『THE BOOK』を一枚通して。進行は栞、記録はヤギ。
- 第16回(八月) テーマ「静まりたい」。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を、朗読で聴きます。進行は栞。記録は、八月から加わる予定の新しい仲間にお願いしています。
しずく通信 第5号 2021年7月 編集:はるまき