ラルム / しずく通信

2020.10.04第2号秋号編集 はるまき寄稿 はるまき・ロク・栞

しずく通信 第2号(2020年 秋)

掲載にあたって この号も、発行した当時の文のまま載せています。文中の「みんなで観る会」は、いまの感情浴会のことです。

もくじ

  1. 秋のはじめに(はるまき)
  2. みんなで観る会の記録 第3回〜第5回
  3. 寄稿 怖い映画を観たあとの眠り方(ロク)
  4. 寄稿 雨の日に聴く声(栞)
  5. 秋の選書
  6. 新しい仲間のこと・次の会のお知らせ

秋のはじめに

(はるまき)

台所の窓を開けたら、夜の風がもう冷たくて、あわてて閉めちゃいました。

創刊号から三か月。七月、八月、九月と、三回の会がありました。夏の庭で昔を懐かしんで、古いビデオテープにぞくっとして、妖怪の話でほっとする。いや、ほんとに、温度差の大きい夏でしたよね。

二号目も、家族が寝たあとに少しずつまとめました。創刊号よりちょっとだけ長く寝かせたので、そのぶん味がしみていたらうれしいです。


みんなで観る会の記録

それぞれの回の記録係が残したメモから、はるまきが短くまとめました。

第3回(七月) 懐かしみたい 『夏の庭 The Friends』湯本香樹実

進行は灯。記録は、はるまきの初仕事でした。観る会なのに、初めて「読んでくる」回です。

小学六年生の男の子三人が、人が死ぬところを見てみたいという理由で、近所のひとり暮らしのおじいさんを見張りはじめる。見張りはいつのまにか手伝いになって、庭の草むしりになって、縁側で並んで話す時間になっていく、ひと夏の話です。

灯は、少年たちが庭に花の種をまく場面を挙げました。咲く頃に何が起きているか、まだ誰も知らない。その順番がこわくて、きれいだったそうです。話はそのうち、それぞれの子どもの頃の夏へ流れていきました。

第4回(八月) ぞくっとしたい 『リング』中田秀夫監督

進行はロク、記録は栞。観ると一週間後に死ぬというビデオテープをめぐる映画です。はるまきは、子どもの寝顔まで怖くなりそうで、この回は見送りました。

部屋の明かりを消して、ロクの合図で同時に再生。終盤のいちばん大事なところで進行役の映像が止まって、暗い部屋で動かないロクの顔だけが映っていたのが、映画と同じくらい怖かった、と栞のメモにあります。翌朝の連絡で、ロク以外の全員が電気をつけたまま寝たことが分かりました。

第5回(九月) 癒されたい 『夏目友人帳』(テレビアニメ)

進行は凪、記録は十一。人には見えないものが見えてしまう少年が、祖母の遺した帳面に書かれた名前を、妖たちに一つずつ返していく話です。凪が第1期から三話を選んで、続けて観ました。

十一のメモは、ほとんどが背景の話でした。田んぼのあいだの一本道、縁側に落ちる木の影。悲しい場面ほど、空が穏やかに描かれている、と。三話観て、誰も泣かず、誰も大声で笑わなかった。それで正解の回だった、とも書いてありました。


寄稿 怖い映画を観たあとの眠り方

(ロク)

八月の会の翌朝、僕以外の四人が電気をつけたまま寝たと分かった。

なので書いておく。怖い映画は、観ている時間より、観たあとの時間のほうが長い。要するに、上映の二時間は入口で、本番は布団の中だ。

僕のやり方は四つある。

一つ目。終わってもすぐに明かりをつけない。エンドロールを最後まで流す。音楽が鳴っているうちに、体が画面の外へ戻ってくる。

二つ目。部屋の機械を確かめる。テレビの裏の配線、充電器の小さなランプ、冷蔵庫の音。怖さは、正体の分からないものから来る。正体の分かるものを一つずつ数えると、自分の部屋の骨組みが戻ってくる。

三つ目。画面の端に何かいた気がしても、巻き戻さない。確かめると、確かめたことを覚えてしまう。

四つ目。それでも眠れない夜は、あきらめる。起きて缶コーヒーを飲む。僕は交代勤務なので、一晩くらいずれても帳尻は合う。

怖い映画が嫌いな人に、無理に勧めるつもりはない。ただ、怖さも心が動いた証拠だ。泣いた夜と同じように、ちゃんと数に入れていい。


寄稿 雨の日に聴く声

(栞)

朗読が終わってから、しばらく雨の音だけが部屋に残りました。

雨の日は、音楽より人の声が聴きたくなります。古い短い小説を、誰かが声に出して読んでいる録音です。宮沢賢治の『よだかの星』や、芥川龍之介の『蜜柑』のような、十分か二十分で終わるものを選びます。

晴れた日に聴くと、声は部屋の中をまっすぐ通っていきます。雨の日は違います。窓を打つ音と、読む人の息つぎが混ざって、声の輪郭が少しにじむ気がします。そのにじんだところに、文字で読んだときには気づかなかった言葉が、ふっと沈んでいきます。

聴く順番も、少しだけ決めています。最初に雨の音を五分ほど聴いてから、再生する。そうすると、声が雨の中から出てくるように聞こえます。

これから秋の長雨の季節です。晴れるのを待つあいだに、一編だけ、どうでしょうか。


秋の選書

『博士の愛した数式』小川洋子(小説)
選んだ人:灯。記憶が八十分しかもたない元数学者と、家政婦の母子の話です。数字が、こんなにあたたかいものだとは知りませんでした。夜長に少しずつ。

『響け!ユーフォニアム』(テレビアニメ)
選んだ人:凪。高校の吹奏楽部の一年です。大会の前の、練習がうまくいかない数話が、自分は何回観ても苦しくて、そのぶん最後に背中が熱くなるんです。

『セブン』デヴィッド・フィンチャー監督(映画)
選んだ人:ロク。雨がほとんど止まない街の話。明るい時間に観ること。

『羊と鋼の森』宮下奈都(小説)
選んだ人:栞。ピアノの調律師になっていく青年の話です。読んでいるあいだ、ずっと小さな音が鳴っている気がしました。

『秒速5センチメートル』新海誠監督(アニメ映画)
選んだ人:十一。三つの短い話。桜、ロケット、雪。どの場面も、一枚の絵として成り立つ映画である。


新しい仲間のこと

今月から、鹿の子が加わります。本を選ぶのが得意で、ミステリや翻訳の小説をたくさん読んでいる人です。十一月の会の記録を、さっそく引き受けてくれました。

次の会のお知らせ

  • 第6回(十月) テーマ「寂しさに浸りたい」。初めての音楽の回です。藤井風のアルバム『HELP EVER HURT NEVER』を、曲順のまま一枚通して聴きます。進行は栞、記録は灯。
  • 第7回(十一月) テーマ「考え込みたい」。村田沙耶香の小説『コンビニ人間』。進行は灯、記録は鹿の子。

しずく通信 第2号 2020年10月 編集:はるまき

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