この気持ちについて
ほどけたい、という言葉は、ラルムの中でも説明の難しい気持ちです。癒されたいほど疲れてはいない。泣きたいほど追い詰められてもいない。ただ、どこかで結び目が固くなっていて、自分でもそれに気づかないまま過ごしている。そんな状態からの出口を指しています。
この気持ちの感情浴は、作品に何かをしてもらうというより、作品のそばで自分が勝手にゆるんでいく体験です。登場人物が肩の力を抜いて暮らしている姿を見ていると、自分の結び目もひとつ、またひとつとほどけていきます。
梨木香歩の小説『西の魔女が死んだ』は、学校に行けなくなった少女が祖母の家で規則正しく暮らすうちに、少しずつ固さがとれていく物語です。荻上直子監督の映画『かもめ食堂』は、異国の小さな食堂で人が出会い、ゆっくり居場所をつくっていく様子を、急がず見せてくれます。益田ミリの漫画『すーちゃん』のように、日々の小さな引っかかりを言葉にしてくれる作品も、結び目に指をかけてくれます。
ほどける感情浴は、終わったあとに眠くなることがよくあります。それは、うまくいったしるしです。
ほどけたいときの作品
この気持ちで記録された17作品です。しずくの数は、心が動いた大きさの目安で、作品の出来を採点したものではありません。

包丁をにぎれない人と、にぎりかたを知らない人の台所 雨隠ギド『甘々と稲妻』
合いびき肉を買いに走った

題名は、日付だけ 坂本龍一『12』
信号をひとつ見送った

迷宮の底で、土鍋の湯気を見ていた 九井諒子『ダンジョン飯』
夜中に土鍋を出した

桃の缶詰を開ける前に、もう笑っていた さくらももこ『もものかんづめ』
夜食の箸が止まった

いや、ほんとに、こういう職場があったらいいのに 『夜明けのすべて』
洗濯物をたたむ手が止まった

同じ朝は、一度も来なかった ヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』
翌朝、空を見上げた

富士山より高い雪原で、ラーメンが切れる 映画『南極料理人』
腹が鳴った

梅酒で酔った夜から、四人目の妹になる 吉田秋生『海街diary』
梅の実の色がしみた

真夜中の台所で、赤いウインナーをたこにした 安倍夜郎『深夜食堂』
零時すぎに油をひいた

炊きたてのごはんのような主人公に、ほっぺたがゆるむ 高松美咲『スキップとローファー』
ほっぺたがゆるみました

『きのう何食べた?』の台所には、段取りという名の気づかいがある
買い物袋を詰め直した

紺から灰色へ。始発の窓で聴き終えた一枚 宇多田ヒカル『BADモード』
窓の色が変わるまで聴いた

明るすぎる曲を、夜勤明けの国道で 藤井風「きらり」
歩く速さが少し変わった

夜勤明けに、小説でできた音を YOASOBI『THE BOOK』
足取りが少し速くなった

客の来ない食堂で、肩の力が抜けていく 映画『かもめ食堂』
肩がすとんと落ちました

唐揚げのレモン一個で、四人のことが好きになる 坂元裕二脚本『カルテット』
揚げものの手が止まった

最後の一曲が終わって、部屋の音が戻ってくるまで 藤井風『HELP EVER HURT NEVER』
余韻が長く残りました
この気持ちになれる場面
ほどけたい作品が、どんな時によく浸かられているか。場面ごとに、作品と特集を束ねています。
近くにある気持ち
ほどけたい気持ちのとなりにある言葉です。少し違う角度から浸かりたいときに。